フロン排出抑制法の歴史
しかし、オゾン層を破壊するフロン類から代替フロンとしてのHFC への転換が進み、HFC の排出量は増加傾向にあること、また、冷凍空調機器の廃棄時の排出のみならず、使用時におけるフロン類の漏えい問題が判明するなど機器の管理に当たっての大きな課題が明らかになったことを受け、平成25年(2013年)6月にフロン回収・破壊法を抜本的に改正し、フロン類のライフサイクル全体を包括的に規制する「フロン排出抑制法」が平成27年(2015 年)4月から施行された。
更に、冷凍空調機器の廃棄時における冷媒回収率は10年以上3割程度に低迷しており、直近でも4割弱に留まっていることから、回収率向上のため関係者が相互に確認・連携し管理者による機器の廃棄時のフロン類の引渡しが確実に行われるような取組を進めることを目的とし、令和元年(2019年)6月にフロン排出抑制法の一部を改正した。(令和2年(2020 年)4月施行)
- 「フロン回収・破壊法」(平成13年法律第64号)施行(業務用冷凍空調機器関連部分)
<制定のポイント>- 対象製品(業務用エアコンディショナー及び業務用冷蔵・冷凍機器)
- 対象製品(CFC、HCFC及びHFC)
- 廃棄者、回収業者の引渡し義務
- 回収業者の登録制度、破壊業者の許可制度
- 破壊業者の引取り・破壊業務
- 廃棄者機器所有者の費用負担
- みだり放出の禁止
- 対象製品の表示義務等
- 「フロン回収・破壊法」カーエアコン関連部分施行
- 自動車リサイクル法(平成14年法律第87号)全面施行
<制定のポイント>- 廃棄等するカーエアコンからのフロン回収については以後同法により規制
- 「フロン回収・破壊法」改正(平成18年法律第59号により改正)
<改正のポイント>- 行程管理制度の創設
- 部品リサイクル時等における回収義務化
- 整備時回収の適正化
- 建物解体時の確認義務
- 都道府県知事の権限強化
- 「フロン排出抑制法」(平成13年法律第64号)施行(平成25年法律第39号により改正)
<改正のポイント>- フロン類の実質的フェーズダウン(段階的削減)(ガスメーターによる取組)
- フロン類使用機器のノンフロン・低GWP化促進(機器・製品メーカーによる転換)
- 機器使用時におけるフロン類の漏えい防止(機器ユーザーによる冷媒管理)
- 充填・回収行為の適正化(充填回収業者による適切な充填)
- 再生行為の適正化、証明書による再生・破壊完了の確認(破壊業者、再生業者による適切な処理)
- 「フロン排出抑制法」(平成13年法律第64号)改正(令和元年法律第25号により改正)
<改正のポイント>- 機器廃棄等の際にユーザーがフロン類の引渡しを行わない違反に対する直接罰の導入
- 機器廃棄時のユーザーから廃棄物・リサイクル業者等へのフロン回収済証明の交付を義務付け
- 建設リサイクル法解体届等の必要な資料要求規定を位置付け
- 解体現場等への立入検査等の対象範囲拡大
- 建物解体時の確認記録の保存を義務付け
- 廃棄物・リサイクル業者等が機器の引取り等の際にフロン回収済証明を確認し、確認できない機器の引取り等を禁止 等
他法令との関係
乗用車のカーエアコン、冷凍車・冷蔵車の乗員用のカーエアコン、バスのエアコン等の空調機器(第二種特定製品)に使用されているフロン類については、「使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)」が平成17年1月に施行され、フロン回収・破壊法から自動車リサイクル法に移行し、同法に基づくフロン類の回収が必要となる。
一方、業務用の冷凍車・冷蔵車の荷室部分の冷蔵・冷凍ユニットについては、フロン排出抑制法が適用される業務用冷凍空調機器(第一種特定製品)であり、機器の点検等の適正管理及び第一種フロン類充塡回収業者によるフロン類の回収が必要となる。
また、自動車リサイクル法が適用されない大型特殊自動車、小型特殊自動車、被牽引車等については、乗員用のカーエアコンについても、フロン排出抑制法が適用される第一種特定製品であり、機器の点検等の適正管理及び第一種フロン類充塡回収業者によるフロン類の回収が必要となる。
家庭用のエアコン・冷蔵庫に使用されているフロン類については、「特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)」の適用を受け、同法に基づくフロン類の回収が必要となる。
一方、業務用の冷凍空調機器に使用されているフロン類については、フロン排出抑制法の対象となる。上記の差異は、当該製品が家庭用又は業務用のどちらの型式で製造・販売されているかによるものであり、実際の使用場所や用途を問わない。オフィスや店舗等で家庭用のエアコン・冷蔵庫が使用される場合もあり、また、業務用の冷凍空調機器が一般家庭等で利用されることもあるので、それぞれ適用される法令について確認する必要がある。
建設工事に係る資材の再資源化に関する法律(建設リサイクル法)では、同法第10 条で、解体工事に着手する7日前までに都道府県知事へ届け出る事前届出制度が規定されている。このような届出を行う工事の場合には、フロン排出抑制法上の第一種特定製品が設置されていることも想定されるので、フロン類の回収が適切に行われるよう留意する必要がある。
また、同法第12条第1項で、対象工事を発注しようとする者から直接工事を請け負おうとする建設業等を営む者は、当該発注しようとする者に対し、所定の事項を記載した書面を交付して説明する義務が課されている。
フロン排出抑制法においても同法第42条第1項に、「第一種特定製品の設置の有無の確認」という、建設リサイクル法第12条第1項と類似の規定が設けられている。両規定は独立しているが、事業者が現場で調査、説明を行う上では、一体的に運用されることが効率的である。
なお、建設リサイクル法第12条第1項の規定により交付される書面の保存義務はないが、フロン排出抑制法第42条第1項の規定により交付された書面については、発注者及び元請業者に3年間の保存義務がある。また、建設リサイクル法上の規定が適用される対象工事は、一定の規模以上(建築リサイクル法第9条及び同法施行令第2条に基づき建築物に係る解体工事の場合は80㎡以上、リフォーム等の場合は請負金額が1億円以上とされている。)のものが対象とされているが、フロン排出抑制法においては規模の如何にかかわらず、同法の規定が適用されるので留意する必要がある。
第一種特定製品の廃棄等の際には、フロン排出抑制法に基づき、充塡されているフロン類や第一種特定製品を引き渡す必要があるほか、機器そのものの廃棄については、廃棄物処理法の適用を受ける。
廃棄物処理法においては、産業廃棄物についてマニフェスト制度(産業廃棄物管理票)の規定があり、適用されている。産業廃棄物管理票の保存期間は5年間であり、フロン排出抑制法に基づく書面の保存期間である3年間とは異なるので留意する必要がある。
地球温暖化対策推進法においては、温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度が設けられており、温室効果ガスを相当程度多く排出する者(特定排出者)に、自らの温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告することが義務付けられている。
温室効果ガスには HFC も含まれ、①HCFCの製造時、②HFCの製造時、③冷凍空調機器の製造時、④業務用冷凍空調機器の設置時・整備時、⑤冷凍空調機器の回収時、⑥発泡剤としての HFCの使用時、⑦噴霧器・消化剤の製造時、⑧噴霧器の使用時、⑨ドライエッチング等でのHFCの使用時、⑩溶剤用途等でのHFCの使用時におけるHFCの排出量が対象となる。しかし、フロン排出抑制法の算定漏えい量の報告・公表制度が対象とする業務用冷凍空調機器の使用時の排出量については算定対象外となっている。
フロン類を充塡した容器、回収機、冷凍機等は、高圧ガス保安法の適用を受ける。一般高圧ガス保安規則、冷凍保安規則、容器保安規則の諸規定があり、移動(運搬)、貯蔵等の技術基準も定められている。
フロン類の回収機の一部(小型のもの)については、高圧ガス保安法施行令関係告示(平成9年3月24日通商産業省告示第139号)により、適用除外とされているものがある。しかし、容器を回収機から取り外せば容器保安規則の適用を受けること、適用除外回収機であっても移動(運搬)、貯蔵等の技術基準が適用されることに留意する必要がある。
冷凍保安規則では、規模により高圧ガス製造の許可、届出が必要であり、また、フロン類の販売も高圧ガスの販売届出が必要である。